夜のとばり
東へ、東へ。
あてどなく進むうちに夜のとばりが海を覆いはじめた。
足元から迫る暗闇を気にもせず、老人は釣り糸を垂らしている。
釣果はいかに。はたして夕飯に間に合うのだろうか。
家族はさぞ腹を空かしているだろう。
日没前後の時間帯を釣り用語で『夕マズメ』といい、釣り人の好む時間帯を指すらしい。
ユ・ウ・マ・ズ・メ
ひとにとっての夕食の団欒をもたらすこの時間帯である一方で、
魚たちにとってはまさに生きるか死ぬかの瀬戸際の瞬間を表す言葉。
でも、そこからはのんびりとしたニュアンスしか感じ取れない。
言葉の不思議、というかエゴ。
魔の時が迫る海辺でふとそんなことを考えてみた。
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